超急性期脳梗塞に対する血栓回収療法脳卒中センター 川崎市の東横病院の脳卒中科(脳神経内科) 脳神経外科

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超急性期脳梗塞に対する血栓回収療法

tPA静注療法と血栓回収療法

tPA静注療法と血栓回収療法

発症から4.5時間以内の急性期脳梗塞に対するtPA静注療法は、現在標準的な治療として広く行われています。しかし本治療は再開通率が低いこと(およそ30-40%)や適応時間が短いことが問題であり、その適応患者も限られています。そこでtPA静注療法によって症状の改善が認められない場合や治療の適応外の症例に対して、カテーテルを用いた脳血管内治療が行われるようになり、最近では血栓回収デバイスによる血栓回収療法が注目されるようになってきました。
欧米では2004年頃から臨床研究が始まった血栓除去デバイスであるMerci Retrieval System (Stryker社)は、2010年10月に本邦において初めて認可されました、本デバイスは、tPA静注療法にて効果が得られなかった場合、あるいはtPAの禁忌例において、発症8時間以内であれば適応とされました。さらに2011年10月にPenumbra system(Penumbra社、国内販売はメディコス・ヒラタ社)が、そして2014年7月にはステント型血栓回収デバイスであるSolitaire FR (Covidien社)とTrevo Provue (Stryker社)が認可されました。

メルシー(Merci retriever)による血栓回収療法

メルシー(Merci retriever)は、先端がらせん状になった柔らかいワイアーです。これを脳の血管の詰まったところまで、挿入して血栓を絡めて取ってくるものです。2010年から認可されました。発症から8時間以内の脳梗塞患者さんに用いることができます。発症から3時間以内に病院へ運ばれてtPA静注療法をうけたが、良くならない患者さんにも使えます。とくに脳の太い血管(内頸動脈、中大脳動脈、椎骨・脳底動脈)に詰まった大きな血栓を除去するのに有効ではないかと期待されています。但し、CTやMRIという脳の検査で、脳梗塞がすでに進行してしまっている場合には使用できません。

メルシーを用いると閉塞した血管は70%-80%再開通すると報告されています。しかし血栓回収中に血管を損傷して、脳出血を生じることもあり、その治療は決して簡単ではありません。日本では、脳血管内治療の専門医のなかで、この器材のトレーニングを受けたものだけが行うことのできる治療です。そのため、どこの病院でもうけられる治療ではありません。最近では新しい血栓回収デバイスが次々と認可されており、メルシーはほとんど使われなくなってきました。

メルシーで血栓回収に成功、頸動脈が完全開通した事例

左2枚の画像で右内頸動脈の完全閉塞を示します。メルシーを脳血管内へ挿入し、血栓を除去することによって完全再開通が得られました。

患者さんは72歳男性、突然左半身マヒと言語障害が発生し、救急車で発症から約1時間で当院へ搬送されました。CT及びMRI検査の結果、右頸動脈閉塞という重症の脳梗塞と診断され、tPA治療を受けましたが症状は改善しません。

頭蓋内の動脈から回収された血栓です

そこで、脳血管撮影検査に引き続いて、メルシーを用いた血栓回収を試みたところ、見事に2回の手技で大きな血栓の回収に成功し、詰まった血管は完全に再開通しました。
半身まひの症状はすぐに回復し、患者さんは何ら障害なく退院されました。

ペナンブラによる血栓回収療法

ペナンブラ(Penumbra system)とは、専用の再灌流カテーテルに強力な吸引ポンプを用いて、血栓を砕きながら回収する器材です。2011年に認可されました。再灌流カテーテルのサイズは3種類あり、血管径に合わせて選択します。また血栓を砕くためのセパレーターと呼ぶガイドワイヤーも3種類あります。
その後、より広径で内腔の広く、頭蓋内血管に容易に誘導できるMAXシリーズ、あるいは2014年10月にはMAX ACEシリーズが導入されて、血栓の回収能力が格段に向上しました。そして最近では、セパレーターを用いずに再灌流カテーテルを閉塞部位に誘導して、用手的または吸引ポンプを用いて直接血栓を一塊として抜去する方法で、短時間で再開通が得られるようになってきました。再開通率は80-90%と報告されています。

ペナンブラカテーテルと血栓回収ポンプ

患者さんは、不整脈を以前から指摘されていた73歳男性です。ゲートボール中に左上下肢の麻痺と言語障害が生じて、30分後に救急車で当院へ搬送されました。MRI検査で脳梗塞と診断され、直ちにtPA静注療法を開始されましたが症状の改善なく、脳血管内治療が行われました。脳血管撮影検査にて、右中大脳動脈完全閉塞を認めペナンブラカテーテルを閉塞部位まで挿入し、吸引を開始するとほぼ完全再開通が得られました。治療後に左半身麻痺は直ちに回復し、2週間後には退院されました。

ステントリトリーバーによる血栓回収療法

2014年7月に、新たなステント型の血栓回収デバイスが2種類同時に認可されました。ソリティア(Solitaire FR)は、オープンメッシュシートをオーバーラップに丸めた形状のステント型血栓回収デバイス(図の上段)です。トレボ(Trevo Provue)は先端チップを持ちらせん状のチューブ構造のステント型血栓回収デバイス(図の下段)です。共に従来の器具と比べて血栓回収の効果は高く、再開通率は90%程度に向上し、安全性も高いことが報告されています。

ステントリトリーバーと回収した血栓
(上段:ソリティア、下段:トレボ)

また2014年から2015年にかけて、本デバイスを用いた国際共同試験の結果がいくつか発表されました。主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞患者に対して、従来のtPA静注療法だけを行う群と、それに追加して血栓回収療法を行う群を無作為に分けてその治療成績を比較するランダム化試験です。その結果は、すべて血栓回収療法を行った方が患者さんの回復効果は良好で、自立した生活が送れるようになる患者さんの割合が有意に多いというものでした。
しかし本治療は日本脳神経血管内治療学会専門医を有する病院でしか受けられません。しかも24時間体制で本治療を施行できる病院はまだまだ少ないのが現状です。東横病院では専門医が4名在籍し、24時間365日いつでも治療ができる態勢を整えています。

患者さんは、68歳男性です。以前から心房細動を指摘されていましたが未治療でした。自宅で朝食中に突然に左上下肢の麻痺と言語障害が生じて、様子を見ていましたが改善なく、2時間後に救急車で当院へ搬送されました。MRI検査で脳梗塞と診断され、直ちにtPA静注療法を開始されましたが症状の改善なく、脳血管内治療が行われました。脳血管撮影検査にて、右中大脳動脈完全閉塞を認めました。そこでステント型血栓回収デバイスを閉塞部位まで挿入して回収すると1回目で部分開通となり、2回目の回収で完全再開通が得られました。左半身麻痺は直ちに回復し、2週間後には自宅に退院されました。

血栓回収療法と地域連携

急性期脳梗塞患者さんに対して、tPA静注療法の効果が無い場合に血栓回収療法を追加する治療方法は、複数の国際的な臨床試験にてその効果が証明されました。そのため、本治療は標準的な治療として、できる限り多くの患者さんがこの治療を受けられる機会が得られるように、脳卒中の緊急診療体制を各地域で整備する必要があります。
しかし血栓回収治療は日本脳神経血管内治療学会専門医を有する病院でしか受けられません。しかも24時間体制で本治療を施行できる病院はまだまだ少ないのが現状です。そこでtPA静注療法を受けた患者さんの中で、主幹動脈が閉塞している患者さんは、直ちに血栓回収療法が施行できる病院へ救急車で転送するシステムも徐々に整備する必要があります。この転送システムを、「ドリップ・シップ・リトリーブ」と呼んでいます。
東横病院では専門医が4名在籍し、24時間365日いつでも治療ができる態勢を整えており、他病院からの緊急転送患者さんも積極的に受け入れています。

聖マリアンナ医科大学 東横病院 脳卒中センター

聖マリアンナ医科大学 東横病院 脳卒中センター

標榜科目 脳卒中科(脳神経内科)、脳神経外科

センター長
脳卒中科教授 植田 敏浩
住所
神奈川県川崎市中原区小杉町3-435
電話
044-722-2121